はじめに｜再びSの名を冠したWRXが走り出す意味
東京オートサロン2025。その喧騒の中で、一台のマシンが静かに、だが確かに空気を変えた──Subaru WRX STI S210。
その名を聞くだけで、胸の奥が疼いた。“S”が戻ってきた。あの熱が、また蘇る。
これはただの限定車じゃない。スペックを並べただけじゃ語れない、「魂」が宿るマシンだ。
STIが手がけたこのS210は、鋼のボディに情熱を、メカに意志を、そしてハンドルに“対話”を込めたコンプリートカー。時代がどう変わろうとも、走ることの意味を問いかける──そんな存在だ。
「速さだけが理由じゃない」。
あの頃、峠で息を詰めながらS字を駆け抜けていた自分が、今も心のどこかでそう囁いている。S210は、その記憶に応えるように現れた一台なのかもしれない。
この記事では、Subaru WRX STI S210のすべてを紐解く。
価格、スペック、販売情報──そして300PSという鼓動の意味。
このクルマがなぜ、今、僕らの前に姿を現したのか。その問いに、言葉でアクセルを踏み込んでいこう。
Subaru WRX STI S210とは？｜2025年型、Sシリーズ最新作の正体
STIが生み出す“S”の称号──それは、単なるグレード名ではない。選ばれし者の証であり、走りへの覚悟の結晶だ。
この2025年型「WRX STI S210」は、その名に恥じない、いや、その名にしか辿り着けない進化を遂げている。ベースはWRX S4 STI Sport R EX。だが、そのままでは終わらない。
ニュルブルクリンク24時間耐久という極限の世界で磨き上げられたノウハウが、STIの魂とともに注ぎ込まれている。
ボンネットの下に収められたエンジン。サスペンションの挙動。ステアリングの反応──どれもが、ただのスペック表には収まらない“情熱”を孕んでいる。
これは、数字で語る車じゃない。ステアリングを握り、アクセルを踏み込んだ瞬間にわかる。“この車には、意思がある”と。
STIは、またひとつ我々に問いかけている。
「お前は、まだ走る覚悟があるか？」と。
WRX STI S210のエンジン性能と馬力｜FA24型2.4Lターボの進化
このマシンの“鼓動”を担うのは、FA24型──2.4リッター水平対向4気筒ターボエンジン。
最高出力は300PS（221kW）、最大トルクは38.2kgm（375Nm）。それはもはや、ただのスペックではない。“意志”を持って蹴り出す力だ。
特筆すべきはその“出力特性”にある。2,000rpmという低回転域から立ち上がる厚みのあるトルクは、まるでドライバーの心を読み取るように、タイミングよく背中を押してくる。踏めば応える。迷えば揺れる。
このエンジンはただ回るだけじゃない。「走る」という感情に、呼応する。
CVTと聞けば、MT派の僕らはつい身構えるかもしれない。だが、S210に搭載された専用制御のSubaru Performance Transmissionは、その“固定観念”をぶち壊す。
8速マニュアルモードは、ギアチェンジというよりも“選択”に近い。シフトアップひとつにしても、遅れがないどころか、こちらの意図を先回りして動いてくる。
これはもう変速じゃない。「対話」だ。
マシンと心がリンクする、あの一体感が、ここにはある。
シャシーとサスペンション技術｜STIコンプリートカーの底力
ステアリングを切った瞬間、そのクルマが何を目指しているのかがわかる。
WRX STI S210が追い求めたのは、限界ギリギリの数字じゃない。「心で感じる走りの質」だった。
ZF製の電子制御ダンパーに、専用セッティングのスプリング。そして足元には、BBS製19インチ鍛造ホイールと、ミシュランPilot Sport 4Sが静かに構える。
だが、この車が他と違うのは、数字に現れない“接地感”だ。
STI独自の「フレキシブルドロースティフナー」や「フレキシブルタワーバー」がもたらすのは、ボディの硬さではない。“しなやかな芯”だ。
車体が路面のうねりに優しく身を預け、そして瞬時に反応する。
ドライバーの入力に応えるその挙動は、もはや金属の集合体ではない。
──そう、“生きている”のだ。
運転席でハンドルを握れば、車がこちらの意図を先に察するような一体感に包まれる。
それは、昔のR32 GT-Rのような“重たい対話”とは違う。もっと深く、もっと繊細で、「信頼」に近い感覚だ。
この領域は、ただのチューンでは辿り着けない。STIが積み重ねてきた時間と情熱の結晶──それが、このシャシーに宿っている。
専用装備とデザイン｜内外装に宿る“走りへの哲学”
WRX STI S210が放つ存在感は、数字では計れない。
それは、ただ速く走るための“機械”ではなく、走ることの意味をかたちにした答えだからだ。
外装にまず目を奪われる。
ドライカーボン製の大型リアスポイラー──空力装置でありながら、そこには美しさすら宿る。フロントアンダースポイラー、サイドアンダースカート、リアディフューザー。すべてが「走る」ための機能に徹し、それでいて一切の無駄がない。
このクルマの美しさは、まさに機能美の極致。速さを追い求めた結果が、この静謐なフォルムを生んでいる。
ボディカラーはS210専用のクリスタルホワイト・パール。
冷たく、そして鋭く。その白は“静かなる狂気”を孕んでいるかのようだ。
佇まいはまるで、鞘から抜かれた刀。何も語らずとも、そこにあるだけで“覚悟”を感じさせる──そんなオーラを纏っている。
インテリアもまた、妥協がない。
RECARO製のカーボンバックシートは、まるで“走るための鎧”だ。身体を包み込むその形状、ナッパレザーの触感、そして8ウェイの細やかな調整機能。長距離でも疲れない。いや、走ること自体が癒しになる。
そしてセンターコンソールに埋め込まれた、S210専用のシリアルナンバープレート。
量産ではない、機械ではない──「あなただけの一台」であることを、静かに、しかし力強く物語っている。
WRX STI S210の価格と販売方法｜限定500台、その価値を問う
日本国内限定500台──その数字を見た瞬間、僕は思わず息を呑んだ。
このクルマは単なるプロダクトじゃない。“選ばれし者とだけ結ばれる、一期一会の相棒”なのだ。
価格は未発表。しかし、先代のS208が600万円台後半だったことを踏まえれば、S210も同等か、それ以上となる可能性は高い。
だが、ここで問われるのは「価格」ではない。「価値」だ。
300PSの数字でも、鍛造ホイールでもない。ハンドルを握ったとき、自分の内側がどう震えるか──その“感情の価値”が、S210の真のプライスだ。
販売方法は、スバル公式オンラインによる抽選販売が有力視されており、発売は2025年春頃とされている。
つまり、このクルマを手にできるかどうかは、金額やスピードではなく、“縁”に委ねられるということだ。
数あるスポーツカーの中で、この一台と巡り合える確率──それはまさに“運命”に近い。
そしてもし、その500分の1に名を刻めたなら、あなたはきっとこう思うだろう。
「このクルマは、最初から俺のもとに来る運命だった」と。
WRX S4 STI Sport Rとの違い｜比較で見えるS210の“本質”
「WRX S4 STI Sport R EX」と「S210」。
両者の違いを数字で並べれば、確かに見えてくるものはある。271PSから300PSへ。サスペンション、制御、構成部品の数々が、より鋭く、より専用に磨き上げられている。
だが──本当に違うのは、その“奥にある気配”だ。
S4は万能だ。誰でも安心して速く走れる。けれど、そこには“解像度の高い安全性”がある反面、ドライバーに問いかけてくるものは少ない。
一方のS210は違う。クセがある。扱いにくさすらある。
しかしそのぶん、ステアリング越しにこちらの心を試してくるのだ。
「お前は、本当に走りたいのか？」と。
峠で感じる、わずかな路面の変化。アクセルオンでのリアの沈み込み。カーブの途中で“踏めるかどうか”を問われる感触。
──それは、かつて僕がR32 GT-Rで味わった“危うさ”に似ている。
だがその危うさこそが、車と真に向き合う覚悟を引き出してくれる。
S210は、“わかる者にしかわからない”という領域に足を踏み入れている。
それは挑戦であり、贅沢であり、そして──人生のどこかで忘れていた「走るという感情の原点」を、もう一度思い出させてくれる存在なのだ。
海外の反応とSubaruファンの声｜S210が世界で注目される理由
WRX STI S210の存在は、国境を越えて人々の心を震わせている。
日本で生まれたこの特別なマシンは、今や世界中のスバリストたちにとって“希望の象徴”になりつつある。
reddit、YouTube、X（旧Twitter）──SNSの各所には、驚きと羨望、そして歓喜が溢れている。
そこに並ぶ声は、スペックへの称賛ではない。“走りへの回帰”を望む者たちの、魂の叫びだ。
「STI is back. Japan still knows how to build drivers’ cars.」
「This is what we wanted. Forget hybrids, give us S210 worldwide.」
「Manual or not, that 300PS boxer still sings. Respect.」
たしかにS210はCVTモデルだ。伝統的なMTを愛する者たちの中には、疑問の声もあるだろう。
しかし、実際にそのステアリングを握った者からは、まったく異なる感想が返ってきている。
「これはCVTの概念を覆す。レスポンスがまるでMT。」
「ターボの立ち上がりと足の動きが完璧にシンクロしてる。まるで、S208を超えた。」
人は、“本物”に触れたとき、言語を超えて共鳴する。
そしてS210は、その領域にまで達したマシンだ。
STIのエンブレム──それは単なるブランドロゴではない。
世界中のドライバーたちにとって、それは「走ることを愛する証」なのだ。
まとめ｜数字を超えた“魂の一台”としてのS210
Subaru WRX STI S210──それは、単なるハイパフォーマンスカーではなかった。
限定500台という希少性。300PSの躍動。そしてSTIが積み重ねてきた技術の粋が詰まった、まさに“完成された構造”。
だが、僕の心を掴んで離さなかったのは、そんな完璧さの向こうにある、“未完成の余白”だった。
ちょっとしたクセ。路面の変化に敏感すぎる足まわり。時にヒヤリとさせるリアの動き。
だがそれらはすべて、ドライバーを試し、呼び覚ます。
──「お前は、まだ走る理由を持っているか？」と。
思えば僕たちが青春を捧げたR32 GT-RやS15シルビアにも、同じ“危うさ”があった。
速さではなく、手応えを求めていたあの頃。
S210は、その記憶を、令和の時代に静かに、でも確かに呼び起こしてくれる。
STIのロゴは、スペックを誇るためのものじゃない。
それは「走ることを信じ続けた者たちの誇り」だ。
──もし今、あの夜の自分が助手席にいたなら、こう言うだろう。
「なぁ……お前、やっぱりまだ走りたかったんだな」って。
S210は、そんな気持ちを思い出させてくれる、“魂の一台”だ。
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