“新型ランエボ”は本当に復活するのか？ファンの願いと三菱の本音

夜を走ったあの頃の鼓動──「ランエボ復活」は本当に夢なのか？

深夜の峠。路面に反射するヘッドライトの輪郭が、まるで過去の記憶をなぞるように揺れていた。タービンの甲高い咆哮、AYCが路面を掴みなおす微かな感触。そして、ブリスターフェンダーを張ったボディが闇を裂く瞬間──あのクルマを、僕は忘れたことがない。

ランサーエボリューション。誰よりも速く、誰よりも真っ直ぐに「走る意味」を教えてくれた名だった。

2015年、ファイナルエディションが発売され、ランエボは一つの物語を閉じた。けれど、それは終わりじゃなかった。X（旧Twitter）、YouTube、掲示板。10年経った今でも「ランエボ、復活してくれ」と叫ぶ声が絶えない。

“まだ走っている”。そう言いたくなるほどに、あの車は、僕たちの中で生き続けている。

2025年──三菱の未来戦略の影で、ある小さな“炎”がまた揺れ始めている。ランエボ復活の噂。静かだが、確かに熱い。この熱は、ただの希望ではない。かつてそのステアリングを握り、峠を、サーキットを駆けた者たちの“祈り”だ。

もう一度だけでいい。あの音を、あの加速を、あの哲学を、時代の鼓動とともに感じてみたい──そう願うすべての人へ、この言葉を捧げたい。

ファンの熱望：「新型ランエボXI」の噂とCGの広がり

ある日、SNSのタイムラインに流れてきた1枚のCGが、僕の心を撃ち抜いた。──それは「もし、ランエボがこの時代に生まれていたら？」という“夢”が具現化された一台だった。

ワイド＆ローなシルエット、瞳のようなLEDヘッドライト、そしてどこか懐かしい“WRCの影”。誰かが描いた幻のランエボXIは、ファンの心に火を灯した。

くるまのニュースによれば、そのCGはSNS上で瞬く間に拡散。「これが出るなら、即買う」「ランエボよ、もう一度」といったコメントが飛び交い、数万リツイートを記録した。

僕は思う。あれは単なる“画像”じゃない。眠っていた熱、封じ込められた願い、走りへの純粋な渇望。それがCGという形を借りて、今この瞬間に蘇ったんだ。

ランエボというクルマは、カタログのスペック表じゃ測れない。ステアリングを握った瞬間から始まる“対話”と、“戦う意志”を背負った機械だ。

たとえそれがデジタルの世界でも、その魂を感じた人が、今の時代にも確かにいる。

三菱の本音：2025年株主総会で語られた“否定と希望”

2025年6月、蒸し暑い東京の一室で──それは、静かに語られた。

「ランエボの復活はないのでしょうか？」

その質問が株主から投げかけられたとき、会場に一瞬、時間が止まったような空気が流れた。

加藤隆雄社長の答えは、慎重で、静かだった。

「現時点で、ランエボ復活の具体的な計画はありません。まずは時代に合った車を優先的に事業化してゆきたいと考えておりますが、皆さまにご納得いただけるよう、そうした要望、そうした商品に取り組んでゆきたいと思っております」

ベストカーWebによれば、それは“明確な否定”でありながら、同時に“消しきれない余白”を残すものだったという。

企業としての理性と、ブランドとしての情──その狭間で揺れる三菱の本音が、そこにあった。

ランエボとは何か？

それは、ただのモデル名ではない。三菱という企業の「意地」と「証明」だった。WRCの雪道を駆け抜け、セダンという枠を破壊し、世界を驚かせた魂──それを、彼らは忘れていない。

だからこそ軽々しく「復活」とは言えないのだろう。けれど、僕はかすかに希望を感じた。

火は絶えたかもしれない。でも、消えてはいない。──そう信じたくなるような、一瞬の温度が、確かにそこにあった。

現実の壁：アライアンス戦略と電動化の波

「願えば叶う」──そんな言葉が、どこか遠く感じる時代がある。

いま、三菱自動車が置かれている現実は、決して甘くない。

電動化、SUVシフト、グローバルアライアンス──開発リソースは絞られ、すべてが「利益」というフィルターを通して判断される。それが、2025年の自動車産業という戦場だ。

東洋経済によれば、かつてランエボの復活案として、ルノー・メガーヌR.S.のエンジンを流用するプランが検討されたという。けれど、それが本当に「ランエボ」だっただろうか？

確かに、それは速いかもしれない。合理的かもしれない。だが、そこに“あの匂い”はあるだろうか？ ステアリング越しに伝わってきた「闘う意志」は、宿っているだろうか？

市場は変わった。かつてのように、若者たちがローンを組んででもスポーツセダンを欲しがる時代ではない。

そして、三菱は再び利益を出すために、現実的な選択を迫られている。

「走る意味」より「売れる理由」──それが、今の三菱が直面する“選択”だ。

だけど僕は思うんだ。売れる理由を選んでも、心を動かす理由を捨てなければ、きっと未来はつながっていく。

未来の可能性：「ランエボ」の名を継ぐ形とは？

2025年の静かな朝。もし目を開けたときに目の前に新型ランエボがあったなら。「見た目だけではない、心臓を揺さぶる何か」がきっとそこにあるはずだ。その熱が、僕らをクルマと人との境界を越えさせる。

予想スペック

数字の裏にある「走る意味」

このスペック表が語らせてくれるのは、ただの加速または馬力ではない。そこに宿るのは「ランエボの魂」。2.4L ターボにPHEV技術を融合させる挑戦には、ラリーで培われた精神とモダンな未来への歩みが混ざる。高速においてもコーナーにおいても、ステアリングの先に“生きている”何かを感じられる──それこそが真の進化ではないだろうか？

未来のランエボは、ここにあるかもしれない

もし、新型ランエボXIが静かに立っていたら──

そこには、昔の喧騒ではなく、精緻に研ぎ澄まされた“意志”がある。

2.4リッターのターボサウンドも、電気モーターの静かな鼓動も、そのすべてが
「走らせるだけ」でなく、「心を揺さぶる」ために存在している。

新型S‑AWCは、ただの制御ではない。ステアリングと路面の間に、あなたの魂を運ぶ導管だ。

4.0秒台の加速は数字以上の約束。かつてランエボが教えてくれた
“人生を切り裂くような瞬間”──その感覚が、再び手のひらに届くかもしれない。

価格は500万を超えてもいい。なぜなら、それはただのクルマではなく、
“信じていた夢”と“未来の走る哲学”が交差する一点だから。

数字じゃなく、意思が走る

スペックだけでは測れないのがランエボの魅力。

もしも新型が出るとしたら、それは過去のエボをなぞるのではなく、「進化」を意味する“エボリューション”の名にふさわしい存在であってほしい。

PHEVの静寂、ターボの咆哮、最先端の制御。それらが「走る意味」を再定義するとき、僕たちはまたステアリングに恋するだろう。

もし、ランエボがこの時代に“進化”するとしたら──その姿は、僕たちの記憶と同じではないかもしれない。

三菱は今、「アウトランダーPHEV」や「eKクロスEV」などの電動車に注力し、現実的なビジネスモデルを積み重ねている。その延長線上で、「走る意味を継ぐクルマ」が生まれる可能性は、ゼロじゃない。

intensive911が語るように、「エボリューション＝進化」──その言葉の本質を思い出すべき時が、今なのかもしれない。

EVでもいい。SUVでも構わない。いや、むしろそこに、時代を超えても残る“精神”が宿っているなら──僕たちは、再びランエボを愛せるのかもしれない。

大切なのは形式じゃない。2リッターターボか、S-AWCかどうかじゃない。ステアリングを握った瞬間に、「走りたい」と思わせてくれる何かがあるかどうか。

魂を継ぐ意思。それこそが“ランエボ”の真のアイデンティティではないか？

いつか、電動の咆哮とともに、未来を駆ける“EVO”が現れる日を──僕は、信じている。

まとめ：僕たちは“復活”を願い続ける

ランエボというクルマは、ただ“速い”というだけの存在じゃなかった。

それは、人生のどこかで「走る意味」を教えてくれた先生だった。夜の峠、真冬の高速、信号待ちで並んだあの瞬間──無数の記憶に、その名は刻まれている。

今、それを再び呼び戻す術は、僕ら自身の“願い”なのかもしれない。

三菱の社長の言葉。その奥にあるのは、経営者の論理だけではなく、“ファンとの約束”のようにも感じた。

ランエボは、まだ眠っているだけだ。エンジンが止まっても、あの哲学は、心の中で走り続けている。

願うことを、あきらめない。

もう一度、走ろう──ランサーエボリューション。その名が、再び路面に刻まれる日まで。

執筆：橘 譲二（たちばな・じょうじ