あの軽さが、いま欲しい。ホンダCR-X歴代(初代バラードスポーツ・サイバー・デルソル)の系譜と、SiR B16Aの中古相場・新型復活の噂

ホンダ

先日、馴染みのチューニングショップに足を運んだら、見慣れない世代が一台のクルマをリフトに上げていた。EF8型、CR-X SiR。低く構えた鼻先と、80年代の遺跡のようなライン。

店主が、油まみれの手で煙草に火をつけながら、こちらを見て小さく笑った。

「最近、40代後半のお客さんが戻ってくるんだよ。みんな同じこと言うんだ。『若い頃に欲しかったんだ』ってね。リッター100馬力に憧れた世代が、ようやく自分の懐で買えるようになって、戻ってきてる」

胸が、少しだけ軋んだ。

1983年に初代バラードスポーツCR-Xが「FFライトウェイトスポーツ」というジャンルを宣言してから、すでに40年以上が経つ。3代目デルソルが姿を消した1999年からだって、四半世紀を超えた。

それでも、CR-Xという3文字は、まだあの世代の胸の中で青い火を灯し続けている。

「新型CR-X」の予想CGがネットを賑わせるたび、僕らはどこかで知っている──あの800kgの感触は、もう新車では帰ってこないかもしれない、と。けれど中古市場には、まだ動いている個体が残っている。今夜は、そこへ静かに歩いていく話だ。

CR-Xという、800kgの覚悟──初代バラードスポーツ(AS型)が宣言したもの


初代バラードスポーツCR-Xは、1983年7月1日に発売された。ホンダ公式プレスインフォメーションを読むと、その立ち位置がはっきり書かれている。

「FFライトウェイトスポーツ」──新ジャンルの宣言。キャッチコピーは「デュエット・クルーザー」。2+2シートに割り切ったパッケージング。徹底した軽量化。

そして、結果として得られた数字が、これだ。

  • 1.3Lモデル: 車重 760kg
  • 1.5Lモデル: 車重 800kg

いま見ても、目を疑う。現代のスイフトスポーツが約970kg、初代ロードスター(NA)が940kgだったことを思えば、初代CR-Xがどれほど「削った」のかが分かる。

樹脂外板という、設計の覚悟

Motor-Fanの解説記事には、ホンダがどんな「軽量化材料」を投入したのかが詳述されている。樹脂外板の積極採用、削れる部分は徹底的に削る、という発想。

あの時代に、新車の外板を樹脂にすることは、決して常識ではなかった。けれどホンダは、「軽さ」のためにそれをやった。軽さは贅沢ではない、というメッセージを車体そのもので伝えるために。

峠仲間で、いま3列シートのミニバンに乗っている奴がいる。学生時代は初代バラードスポーツに乗っていた。ある日、缶ビールを傾けながら、こんなことを呟いていた。

「CR-Xはね、軽すぎて怖いって言う奴もいた。でも俺は、あの軽さが好きだった。アクセルを踏むと、車が踊るんだ。重さがないことが、これほど贅沢だってことを、あいつが教えてくれた」

分かる、と僕は答えた。そして、あの軽さは、たぶんもう新車では帰ってこないだろうとも、心の中で付け加えた。

「FFライトウェイトスポーツ」というジャンルを発明した日

「FFライトウェイトスポーツ」という言葉は、ホンダがCR-X発売時のプレスで使った造語だ。前輪駆動で、軽量で、本気で走る。当時のスポーツカーの常識は、FRかミッドシップだった。FFで「本物のスポーツ」を名乗ることに、技術的な裏付けと、覚悟が必要だった。

後のシビックタイプRも、インテグラタイプRも、いまのフィットRSも、思想の根っこをたどれば、すべてここに行き着く。あの800kgのバラードスポーツが、ホンダの「軽さの系譜」の0号機だった。

2代目サイバー(EF6/EF7/EF8)──VTEC、リッター100馬力という事件


1987年9月、2代目CR-Xが登場する。キャッチコピーは「サイバー・スポーツ」。当時のサイバーパンク・ブームに乗った時代感のあるネーミングだが、車そのものは決して流行に流されていなかった。

2代目には主に3つの型式があった。

  • EF6(1.5X): 1.5L D15B搭載のベースグレード
  • EF7(Si): 1.6L ZC搭載、130PS
  • EF8(SiR、1989年9月追加): 1.6L B16A DOHC VTEC、160PS

2代目のクライマックスは、1989年9月のSiR追加だ。ホンダ公式アーカイブを含む各種資料を辿ると、B16A型(1595cc 直4 DOHC 16V VTEC)を市販車に降ろした最初期の一台が、このEF8 SiRだった。

1989年9月、B16Aが市販車に降りた日

B16Aは、1595ccで160PS。リッター100PSという数字を、自然吸気で達成したという事件。当時の量産NAエンジンで、リッター100PSは「異常」と表現してもいいような領域だった。

B16Aを8,000回転まで回したことのある人なら、分かるはずだ。あれは、ターボの加速とは別の生き物だった。低回転は穏やかで、エコノミーな乗用車のようなフィール。けれど、ある回転数を超えた瞬間、VTECのカムが切り替わり、エンジンが二段階で目覚める。

あの感覚を、僕は「化ける」と表現したい。「回す」ではなく「化ける」。気付けば、まったく別の車に乗っている感覚。あれは、ターボラグからの解放感とはまったく違う、線で繋がる加速の連続だった。

リトラを採用しなかった、固定式の美学

80年代スポーツカーの王道は、リトラクタブルヘッドライトだった。スターレットEP82のターボに、シルビアS13、フェアレディZ31、ピアッツァ、MR2、シティターボII。みんなリトラだった。

けれどCR-Xは、初代から3代目まで、一貫してリトラを採用しなかった。理由はシンプルだ。リトラは重く、構造が複雑で、空力的にも不利。軽量FFスポーツの哲学に、リトラは似合わなかった。

あの低い鼻先と、四角い固定式のヘッドライトは、ホンダの設計者たちが「軽さのために何を諦めるか」を考え抜いた結果だった。デザインは、ときに引き算の答えとして現れる。

旧車イベントで、EF8 SiRの個体を真横から眺めていたとき、隣にいたオーナーが小さく呟いた。

「B16Aは8,000回転回した瞬間に、別のエンジンになる。あれは『回す』じゃなく『化ける』なんだ。ターボの加速とはまったく違う、線で繋がる加速。あれを体験すると、現代のターボ車が物足りなくなる」

僕は黙って頷いた。そして、あの八千回転を、もう一度回したくなった。

3代目CR-Xデルソル(EG1/EG2)──屋根を開けたら、ジャンルの終わりが見えた


1992年3月、3代目CR-Xが「デルソル(delSol)」のペットネームを与えられて登場する。「太陽の」を意味するスペイン語。ホンダ公式プレスインフォメーションの通り、最大の特徴は電動オープンの「トランストップ」だった。

主な型式は2つ。

  • EG1: 1.5L D15B搭載のVXi、後期の1.6L D16A搭載のVGi
  • EG2(SiR): 1.6L B16A DOHC VTEC、170PS

EG2 SiRに搭載されたB16Aは、EF8よりさらに進化して170PSへ。同じ1.6Lでも、二代目EF8の160PSから10PSの上積みがあった。

トランストップ──電動で屋根が開く、当時としての挑戦

「トランストップ」は、電動でメタルルーフをトランクへ自動格納する仕組みだ。屋根が、ボタンひとつでトランクに飲み込まれていく。今でこそ電動オープンは珍しくないが、1992年の当時、これは相当な機構の挑戦だった。

もちろん、複雑な機構には代償がある。デルソルが「失敗作」と言われがちな理由のひとつは、このトランストップの故障の多さだ。経年でモーター、油圧、ゴムシールに持病が出る。動かない個体も、決して珍しくない。

けれど、僕はこう思っている。デルソルは「失敗作」じゃない。「屋根が開く軽量2シーターをライトウェイトスポーツの文脈で最後にやり切った」のは、ホンダだった、ということ。それだけで、この車を尊敬する理由には十分だ。

中古車屋で、デルソルを眺めていたとき、店の親父が言った。

「トランストップは確かに壊れる。でも、壊れたら自分で直せばいい。あのオープンがあるからこそ、デルソルなんだ。完璧じゃないところを愛せるかどうか、それがCR-Xに乗る覚悟だ」

覚悟、という言葉が、ずっと耳に残った。

EG2 SiRのB16AとB16Bの混乱を整理する

中古市場で、デルソルEG2の話をすると、たまに「B16Bが載っている」という記載に出くわす。B16BはDC2インテグラタイプRに搭載されたユニットで、本来デルソルの純正ではない。海外のJDM逆輸入仕様の一部や、後年の載せ替え個体に存在するという話だ。

EG2 SiR=B16A 170PSが基本。B16Bを謳う個体には、その出自と整備履歴を確認する必要がある。

CR-Xの中古市場、いま狙うべき一台はどれか


2026年現在のCR-X中古相場を、世代別に整理しておこう。価格は年々上昇傾向にあり、状態の良い個体は争奪戦だ。

  • 初代AS型(バラードスポーツ): 玉数が極端に少なく、店頭で見ることが奇跡に近い。状態の良い個体は150〜300万円
  • 2代目EF型(サイバー): 1.5XやSi(EF6/EF7)で100〜200万円。EF8 SiRは200〜350万円、低走行・純正に近い個体は争奪戦
  • 3代目EG型(デルソル): VXi/VGiで70〜180万円、EG2 SiRで100〜320万円

初代AS──玉数が枯れた

初代を狙うのは、もはや「出会えたら買う」の世界だ。樹脂外板の劣化、ゴム類の全交換、内装の入手困難。それでも乗りたい、と思える人だけが、初代を迎えるべきだ。

EF8 SiR──争奪戦の真ん中

EF8 SiRは、現在のCR-X市場の主役だ。リッター100馬力という事件を、いま手に届く価格(といっても300万円前後)で体験できる唯一の個体。修復歴なし・純正に近い仕様・整備履歴ありの3拍子が揃っているEF8は、出てきたら3日で消える。

EG2 デルソル──最後の手の届くB16A

そして、EG2デルソル。EG2 SiRは100〜250万円の範囲で、まだ現実的に手が届く価格帯にいる。トランストップの動作確認と、整備履歴の有無が、選定の鍵だ。

初代の幻影を追うか、EF8 SiRの争奪戦に挑むか、EG2デルソルの現実的な選択を取るか。どの選択にも、ドライバーの物語が宿る。

新型CR-Xは、本当に復活するのか


2025年以降、ネット上で「新型CR-X」の予想CGがしばしば話題になっている。くるまのニュースの記事でも紹介されているように、これらの多くは、エストニアのCGアーティスト、Rain Prisk氏らが手がけたレンダリングだ。

大前提として、これらは公式発表ではない。ホンダから「新型CR-X発売」の正式アナウンスは、現時点で一切出ていない。あくまでCGアーティストとファンの夢の延長線上の予想だ。

予想CGは公式発表ではない、という前提

このことを最初に書いておきたい。記事や動画で「新型CR-X登場!」というような扇情的なタイトルを目にしたら、まず一次ソースを確認する癖をつけたほうがいい。ホンダ公式の発表でないなら、それはあくまで「予想」だ。

とはいえ、これだけ予想CGが定期的に話題になり、コメント欄に「欲しい」「待ってる」という声が並ぶこと自体に、僕は意味があると思っている。CR-Xというジャンルは、1999年に名前が途絶えてもなお、市場に火種を残し続けている。

「軽量FFスポーツ」というジャンルが、今もう一度求められる理由

現代の車は、安全装備や電子制御、衝突基準への対応で、避けようもなく重くなった。1.5トン以下のコンパクトでも、装備を増やせばあっという間にその数字を超える。

そんな時代に、「800kgで本気で走る車」を求める声が消えないということ。それは、効率や安全だけでは満たされない、別の何かを車に求める人間が、いまもまだ存在しているということだ。

復活を、ただ待っていてもいい。けれど、待つだけでなく、いま動いている中古を選ぶという答えもある。それは、CR-Xという存在を「歴史」ではなく「現在」のまま残すための、もうひとつの行為だ。

なぜ僕らは、CR-Xの軽さに戻りたくなるのか


重さがないことは、贅沢だ。これは、現代の高性能車にいくら乗っても、絶対に学べない種類の真実だ。

電子制御も装備も、最小限。アクセルを踏むと、車そのものが踊る。ステアリングを切ると、車体ごと意志が傾く。体重と車重の境界が、ある瞬間に曖昧になる。これが軽さの感触であり、CR-Xが教えてくれた歓びだ。

正直に告白する。僕は、ターボの加速も電動の瞬発力も、それぞれに敬意を払っている。けれど、心の奥でしっくりくるのは、B16Aを8,000回転まで回したときの、あの線で繋がる伸びのほうだ。これは、僕の問題だ。

家族のために、ミニバンやSUVを選んだあなたの判断は、間違っていない。子どもが寝ているリヤシートは、何にも代えがたい。けれど、心のエンジンまで止める必要はない。

40代後半になって、ようやくCR-Xを買いに来た同志たちへ。あの800kgの感触は、まだ中古市場で、あなたを待っている。

よくある質問

初代バラードスポーツCR-Xと、2代目サイバーCR-Xの違いは?

初代AS型(1983〜1987)はキャッチ「デュエット・クルーザー」、Si仕様でZCエンジン130PS。800kgの極端な軽量化が哲学。2代目EF型(1987〜1992)は「サイバー・スポーツ」、SiR(EF8)でB16A DOHC VTEC 160PSを得て、「リッター100馬力」というジャンプを果たした。前者は軽さを極めた素朴な設計、後者はVTECで「速さの質」を変えた──そう整理すると分かりやすい。

CR-X SiR(EF8)の中古はいくらくらい?

状態の良い個体で200〜350万円が中心。低走行・修復歴なし・純正に近い仕様は、それ以上の価格でも珍しくない。出物は3日と店頭に並ばないことが多いので、複数の旧車専門店と中古車サイトを並行ウォッチするのが現実的だ。

CR-Xデルソル(EG2)のトランストップは故障する?

故障する。経年でモーター、油圧シリンダー、ゴムシール、各種センサーに持病が出る。購入時は必ず動作確認を。「マニュアルトップ」(手動式の屋根)仕様の個体も存在し、こちらは構造がシンプルなぶん故障リスクが低い。

「新型CR-X」はいつ出るのか?

2026年6月時点、ホンダから正式な発表は一切ない。インターネット上で話題になっているのはCGアーティスト(主にRain Prisk氏)による予想レンダリングで、公式情報ではない。発売を期待する声がファンの間で高まっていることは確かだが、現状は「期待」と「噂」の範囲だ。

CR-Xは「軽すぎて事故が多い」と言われたのは本当か?

軽量・短ホイールベース・FFという組み合わせは、限界が高い反面、限界を超えた瞬間の挙動が素早かったのは事実だ。ただし「軽さ=危険」という単純な構図ではない。当時の若いドライバーが、車の性格を把握しきれずに使ったケースが多かった、というのが実情に近い。いまの落ち着いた大人が、整備された個体を丁寧に扱うぶんには、決して扱いきれない車ではない。

まとめ


1983年に初代バラードスポーツが「FFライトウェイトスポーツ」というジャンルを宣言し、1989年にEF8 SiRがリッター100馬力という事件を起こし、1992年にデルソルが屋根を開いた。そして1999年、CR-Xの名は静かに途絶えた。

あれから四半世紀。新型復活のCGが定期的にネットを賑わせるたび、僕らは思い出す。あの800kgの感触、B16Aが八千回転で化ける瞬間、デルソルの屋根が空に開く夏の風。

それは、効率では絶対に説明できない種類の歓びだった。そして、まだ中古市場には、動いている個体が確かに残っている。

あの800kgの感触は、今夜もう一度、思い出してみてもいい。

執筆:橘 譲二(たちばな・じょうじ)

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