BMW Z4が安い理由は、不人気じゃない。歴代E85・E89・G29 M40iの違いと中古相場・スープラ兄弟・壊れやすさの真実

輸入車

夕暮れの海沿いを、屋根を開けて流したことがある。

潮の匂いが、そのまま顔に吹きつけてくる。茜色に染まった空が、フロントガラスの上で遮るものなく広がっている。そして、ボンネットの奥から響くのは、BMWの直列6気筒が奏でる、滑らかで官能的な音。トンネルに入れば、その響きは壁に反射して、まるで小さなコンサートホールのように車内を満たした。

あの瞬間、僕は確かに思った。実用性なんて、本当にどうでもいい、と。むしろ、その無駄こそが愛おしい、と。

2シーターのオープンカーは、とびきりの非合理だ。荷物も載らない。後席もない。雨の日は気を遣う。それでも、人はこの車に惹かれる。なぜなら、そこには「合理では買えない自由」があるからだ。

──BMW Z4。今日は、この何かと誤解されがちな、直6オープンロードスターの、本当の話をしたい。

屋根を開けた瞬間、世界の色が変わる


正直に書く。家庭を持ち、現実と向き合えば、2シーターのオープンカーは「ありえない選択」になっていく。

家族は乗せられない。ベビーカーも積めない。週末のまとめ買いにも向かない。だから僕らは、ミニバンやSUVを選ぶ。その選択は、まったく正しい。賢い大人の判断だ。

でも、心のどこかで知っているはずだ。あの開放感を。屋根を開けて走り出した瞬間、見慣れた通勤路すら、まるで知らない国の道のように輝いて見える、あの感覚を。

Z4は、その自由を、驚くほど手頃な価格で差し出してくる車だ。「不人気」「安い」と陰口を叩かれながら、その実、わかっている人だけがこっそり楽しんでいる。そんな二面性を持った一台である。

世間の評価と、本当の価値は、必ずしも一致しない。むしろ、ずれているところにこそ、宝は眠っている。Z4とは、まさにそういう車なのだ。

考えてみれば、人の心を本当に動かすものは、たいてい非合理の側にある。夕日が美しいことに、理由はいらない。好きな音楽に、燃費は関係ない。オープンカーもまた、そういう種類の歓びなのだ。

実用を優先してきたあなたの日々を、否定するつもりはない。ただ、人生のどこかで一度くらい、非合理に振り切ってみる権利が、僕らにはあるはずだ。

Z4の系譜 ― E85/E86からE89、そしてG29へ


まず、Z4という車の歴史を整理しておこう。この車は、世代ごとに性格が大きく変わるからだ。

そもそもBMWには、Zの名を冠したオープンスポーツの系譜がある。エポックメイキングなZ1に始まり、映画でボンドが駆ったZ3、そして憧れのフラッグシップZ8。そのZシリーズの一員として生まれたのが、Z4だった。直6FRオープンという血統を、現代へと受け継ぐ存在である。

ルーツは、2002年。名車Z3の後継として、初代E85が登場した。直列6気筒を縦に積み、後輪を駆動する。BMWが守り続けてきたスポーツカーの黄金律を、オープンボディに凝縮した一台だった。2006年には、クーペボディのE86も加わる。

2009年、2代目E89へとバトンが渡る。ここでZ4は、大きな進化を遂げた。Zシリーズで初めて、電動格納式のハードトップを採用したのだ。ボタンひとつで、ロードスターとクーペが一台で両立する。詳しい変遷はBMW Z4(E89)のWikipediaにまとまっている。

そして2018年、現行の3代目G29が登場する。電動メタルトップから、再び軽量なソフトトップへと回帰した。そして何より、この世代には、ある特別な出自がある。トヨタとの、共同開発だ。その背景はBMW Z4(G29)のWikipediaに記されている。

初代の硬派、2代目の優雅、3代目のスポーティ。同じZ4という名でありながら、その表情はまるで三姉妹のように異なる。どの世代に惹かれるかで、あなたの趣味が透けて見える。それも、この車の面白さだ。気になった世代から、まずは実車に触れてみてほしい。写真では伝わらない佇まいが、きっとそこにある。

初代E85/E86 ― 直6とMの硬派な記憶


いまあらためて見直したいのが、初代E85、そしてクーペのE86だ。

この世代の心臓は、M54と呼ばれる直列6気筒。2.5リッターと3.0リッターが用意され、その回転フィールは、まさにBMWの真骨頂だった。

低い回転からスムーズに吹け上がり、高回転までよどみなく回りきる。電子制御で武装した現代のエンジンとは違う、機械そのものが歌っているような感触。アクセルを踏むたびに、背筋がぞくりとした。

デザインも挑戦的だった。当時のBMWが打ち出した、面と面が複雑にせめぎ合うエッジの効いたボディ。発表当初は賛否が激しく分かれたが、いま見ると、どこか時代を先取りした鋭さがある。短いオーバーハングと長いノーズが、FRスポーツらしい緊張感を漂わせていた。

コックピットに身を沈めると、すべてがドライバーを中心に配置されているのがわかる。低い着座位置、手に吸い付くステアリング。屋根を開ければ、頭上に空が広がる。この素朴な開放感こそ、初代Z4が持つ最大の財産だった。

絹のように滑らかで、それでいて獰猛。あの直6を知ってしまうと、ほかのエンジンが少し物足りなく感じてしまう。

そして、この世代には牙を剥いた特別なモデルがあった。Z4 MロードスターZ4 Mクーペだ。心臓は、あの名車E46 M3譲りのS54型3.2リッター直6。猛々しく咆哮するこのユニットは、いまも語り草になっている。

とくにE86のMクーペは、独特のシューティングブレーク的なシルエットが美しい。当時は賛否が分かれたが、いまや希少な名作として、その価値を高めつつある。

ミッションには、マニュアルも用意されていた。自分の左足と右手で、あの直6をねじ伏せる歓び。SMGという自動制御マニュアルもあったが、フィーリングを求めるなら、純粋な3ペダルこそが至福だった。

馴染みの輸入車店の店主が、こう言って笑っていた。

Z4は不人気だなんて言われますけどね。だからこそ、本物の直6FRオープンが、この値段で買えるんですよ。わかってる人には、宝の山です。

E89という美しい折衷 ― 電動ハードトップとGT3


2代目E89を語るとき、まず触れねばならないのは、そのデザインだ。

長いノーズ、伸びやかなボディライン。歴代Z4のなかで「最も美しい」と評する人も少なくない。停まっているだけで絵になる、官能的な造形だった。

そして機能面での目玉が、電動格納式のハードトップ。ボタンひとつで金属の屋根が静かに開き、トランクへと収まっていく。閉じればクーペの一体感と静粛性、開ければロードスターの開放感。二つの悦びを、一台で手に入れられた。

雨を気にせず通勤に使い、晴れた休日には屋根を開けて走り出す。そんな欲張りな願いを、E89は涼しい顔で叶えてくれた。実用とロマンの、絶妙な折衷点だったのだ。

エンジンも多彩だった。当初は伸びやかな直6の自然吸気を積み、のちにダウンサイジングの波を受けて直4ターボも加わる。そして頂点には、直6ツインターボを積んだホットなモデルも存在した。穏やかなクルーザーから、刺激的なスポーツまで。E89は、懐の深いラインナップで多くの人を受け止めた。

金属の屋根が閉じるときの、あの精密な動き。カチリと収まる音とともに、車内は静寂に包まれる。機械の所作そのものに高揚する。BMWというブランドの作り込みを、屋根の開閉ひとつでも感じさせる一台だった。

さらにこの世代には、サーキットで暴れた兄弟がいる。Z4 GT3だ。E89をベースに仕立てられたレーシングマシンで、世界中のレースで活躍した。市販車ではないが、その存在は、おとなしげなE89の血の濃さを物語っている。

美しさと、実用と、走りの素性。E89は、それらを高い次元で両立させた、稀有なオープンスポーツだった。

G29とスープラ ― 兄弟が分け合った直6の夢


そして現行のG29。この世代を語るうえで、避けて通れない名前がある。トヨタ GRスープラだ。

そう、現行Z4と新型スープラは、BMWとトヨタが手を組んで生み出した、紛れもない兄弟車なのだ。プラットフォームを共有し、心臓まで分かち合っている。その経緯はスープラとZ4が兄弟車である理由の解説に詳しい。

なぜ、トヨタはBMWと組んだのか。背景には、スープラ伝統の「直列6気筒・後輪駆動」を実現するという目標があった。そして当時、世界で直6を作り続けていたのは、ほぼBMWだけだったのだ。名機の系譜を絶やさぬための、必然の握手だった。

その頂点に立つのが、M40i。3.0リッター直列6気筒ツインスクロールターボを積み、日本仕様で最高出力340馬力を発揮する。屋根を開けたまま、この弾けるような加速を味わえる贅沢。試乗の様子はclicccarのZ4 M40i試乗レポートが伝えている。

ただし、ひとつ正直に書いておく。M40iのミッションは、8速オートマチックのみ。マニュアルの設定はない。スペックの詳細は価格.comのM40iスペック記事で確認できる。

もちろん、頂点のM40iだけがG29ではない。直列4気筒ターボを積んだsDrive20iやsDrive30iも用意され、より軽快なノーズの動きと、手の届きやすい価格を実現している。直6にこだわらなければ、選択肢はぐっと広がる。

内装の質感も、現行世代で大きく進歩した。最新のディスプレイ、上質な素材、ドライバーを囲い込むようなコックピット。古き良きスポーツカーの官能と、現代の快適さ。その両方を、G29は当たり前のように同居させている。

同じ心臓、同じ骨格を持ちながら、Z4は屋根の開くオープン、スープラは剛性を極めたクーペとして、性格を分けた。兄弟でありながら、見ている夢が少しだけ違う。その対比が、たまらなく面白い。乗り比べれば、同じ素材から、これほど異なる味が引き出せるのかと驚くはずだ。

「安い理由」の正体 ― 中古相場・壊れやすさ・狙い方


さて、多くの人が気にしているであろう核心に踏み込もう。なぜ、Z4は中古でこんなに安いのか。

理由は、決してこの車の魅力が低いからではない。最大の要因は、2シーターのオープンカーという、その成り立ちそのものにある。

家族を乗せられず、荷物も積めない。需要が限られるぶん、中古市場では価格がこなれやすい。さらに、輸入車ゆえの維持費への漠然とした不安が、それに拍車をかける。「不人気」という言葉の正体は、要するに「実用的ではない」というだけのことなのだ。

裏を返せば、どういうことか。本格的な直6FRオープンという贅沢が、驚くほど手頃な価格で手に入る。これを宝と呼ばずに、なんと呼ぼう。Z4の安さは、欠点ではなく、わかっている人へのご褒美なのだ。

もちろん、「壊れやすい」という噂にも、向き合っておかねばならない。輸入オープンカーである以上、注意すべき点は確かにある。

まず、電動ルーフの機構。これが故障すると、修理費はそれなりにかさむ。冷却系の樹脂部品、電動ウォーターポンプ、ベルトのテンショナーなども、10万kmを目安にいたわってやりたい。初代前期のオートマチックや、SMGには当たり外れがあるとも言われる。中古選びの勘所はトップランクのZ4中古注意点が参考になる。

幌の状態は、とくに念入りに確認したい。開閉がスムーズか、生地に傷みやひび割れがないか。電動ルーフは、Z4というオープンカーの心臓部のひとつだ。ここが健全であることは、その個体が大切に扱われてきた何よりの証になる。

では、どう選べばいいのか。狙い目は、信頼性の高い直6を積み、整備履歴のはっきりした個体だ。予算が許すなら、保証の付くBMWの認定中古車を選べば、安心度はぐっと上がる。多少値が張っても、保証という安心料は、輸入車では決して高くない買い物だ。

価格表の安さだけに飛びつくと、後から手痛い出費が待っている。けれど、素性の確かな一台を選べば、Z4は値段以上の歓びを返してくれる。安さの裏側を理解した者だけが、本当の果実を手にできるのだ。

よくある質問

どの世代を選ぶべきか

硬派な直6とマニュアルを楽しみたいなら初代E85/E86。とくにZ4 Mは別格の存在だ。美しいデザインと電動ハードトップの一台二役を求めるならE89。最新の性能とスープラ譲りの走りを味わいたいなら、現行G29のM40i。何を一番大切にするかで、おのずと答えは見えてくる。

マニュアル(MT)設定の有無

世代による。マニュアルを純粋に楽しめるのは、主に初代E85/E86だ。一方、現行G29のM40iは8速オートマチックのみで、MTの設定はない。3ペダルにこだわるなら、初代を中心に探すことになる。

トヨタ スープラとの違い

現行Z4と新型スープラは、骨格と直6エンジンを共有する兄弟車だ。最大の違いはボディ。Z4は屋根の開く電動ソフトトップのオープン、スープラは高剛性のクーペ。開放感を取るならZ4、ソリッドな走りを取るならスープラ、という棲み分けになる。

本当に壊れやすいのか?

過度に恐れる必要はない。たしかに電動ルーフや冷却系など、注意すべき点はある。だが、信頼性の高い直6を積んだ個体を、整備記録を確認したうえで選べば、十分に付き合っていける。むしろ、きちんと手をかけられてきた一台は、長く歓びを与えてくれる。

まとめ


Z4は、合理の物差しでは測れない車だ。荷物は載らない。家族も乗せられない。世間では「不人気」と囁かれる。

でも、屋根を開けて走り出した瞬間、その全部が、どうでもよくなる。風、光、そして直6の歌。五感のすべてが満たされる、あの時間の前では、実用性という言葉が色褪せていく。

実用を優先してきた日々を、悔やむ必要はない。それは、立派な大人の選択だ。けれど、人生のどこかで、非合理に振り切る一台を持つことは、思っている以上に、心を豊かにしてくれる。

Z4の安さは、不人気の証なんかじゃない。それは、合理を捨てる勇気を持った者だけに開かれた、静かな扉なのだ。

あの夕暮れの海沿いで感じた風は、いまも僕の記憶のなかで、塩の匂いとともに心地よく吹き続けている。そしてその風は、きっと、もう一度ステアリングを握る理由になる。

執筆:橘 譲二(たちばな・じょうじ)

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