エンジンを切り、シートベルトを外す前に、しばらくそのまま座っていた。ステアリングに残る走りの余韻と、子どもの寝息と、ガレージの天井に映る夕方の最後の光。その3つが、同じ時間の中に並んでいることが、僕にはまだ少しだけ不思議だった。
レヴォーグ。スバルが日本のためだけに作った、走るステーションワゴン。SUVが街を埋め尽くし始めた時代に、低い屋根のワゴンを選ぶというのは、確かに少しだけ時代に逆らう選択だった。だが、家族と走りを諦めなかった大人にとって、このクルマは──ある種の「答え」だったのだと、今ならよく分かる。
僕はレヴォーグの低い屋根の下で考えていた

初めてレヴォーグを試乗したのは、2代目VN5が発売されてしばらく経った頃だった。当時、僕は2台目のクルマの買い替えを検討していて、選択肢にはミニバン、SUV、そしてワゴンが並んでいた。妻はミニバンを推していた。子どもが2人になる可能性も含めて、後席の広さと乗り降りのしやすさを重視していたからだ。
僕は黙って、スバルのディーラーに足を運んだ。展示車のレヴォーグは、低くて長くて、明らかに「走るために設計された」プロポーションをしていた。運転席に座った瞬間、視線の低さに体が反応した。これは、ミニバンの視線ではない。SUVの視線でもない。地面に近い場所から世界を見るための、スポーツカーに近い視線だった。
セールスマンが助手席に乗り、試乗コースに出た。ステアリングを軽く切ると、フロントが素直に内側を向く。シンメトリカルAWDの安定感と、低重心の素直さが、最初の交差点で僕の右手に届いた。エンジンは1.8L水平対向ターボ。低回転からトルクが太く、街中の流れに対して過不足のない仕事をしてくれた。
試乗から戻って、僕は妻に「ちょっとだけ見てほしい車がある」と言った。妻は怪訝な顔をしながら助手席に座った。10分後、彼女の口から出てきたのは「あら、これ、家族のクルマなのにスポーツカーみたいね」だった。──そう、まさにその一言が、このクルマの本質だった。
レヴォーグが日本専用設計だった理由

レヴォーグというクルマが、なぜここまで「日本の道路にちょうど良い」のか。その理由を知るには、5代目レガシィ・ツーリングワゴンが歩んだ道を、少しだけ振り返る必要がある。
LEgacy+REVOlution+tourinG。3つの単語の合成
まず、車名の意味から押さえておきたい。LEgacy(従来の価値)、REVOlution(革新)、tourinG(走りの楽しみ)。この3つの英単語の合成が、「LEVORG」という名前になっている。レガシィの伝統を継承しながら、新しい時代に対応するツーリングワゴンを作る──。命名の段階で、すでにこのクルマの使命は明確に書かれていた。
5代目レガシィが置いてきた席
2009年に登場した5代目レガシィは、北米市場のニーズに応えてボディサイズを大きく拡大した。それは経営判断として理にかなった選択だった。だが、その結果として、Motor-Fanの解説記事が指摘するとおり、日本のユーザーが本当に求めていた「コンパクトでスポーツ性能と荷室性能を両立したワゴン」という席が、市場から消えてしまった。
その空白に座ったのが、レヴォーグだった。2013年11月の東京モーターショーでプロトタイプが公開され、2014年6月に発売された初代VM4/VMG。当時の自動車誌は、このクルマを「4代目レガシィの再来」と評した。「歴代最高のレガシィ」と熱狂的に支持された4代目の感覚を、現代の技術で蘇らせる。それが、初代レヴォーグの隠された設計思想だった。
輸出は、最初から想定されていなかった。日本の道路、日本の駐車場、日本の高速道路。そのすべてに最適化されたサイズで、本気の専用車を作る覚悟。それは、グローバル戦略を優先する現代の自動車メーカーとしては、ある意味で異例の選択だった。
2代目VN5、SGPとアイサイトXで進化したワゴン

2020年10月、2代目レヴォーグVN5が発売された。そして同年12月、このクルマは「日本カー・オブ・ザ・イヤー2020-2021」を受賞する。国産ワゴンとしては久々の大型受賞だった。
フルインナーフレームで剛性44%アップ
2代目の進化の核心は、ボディそのものにある。スバル・グローバル・プラットフォーム(SGP)にフルインナーフレーム構造を組み合わせ、構造用接着剤の使用を大幅に拡大した。webCGの受賞ニュース記事でも触れられているとおり、ねじり剛性は従来比44%アップしている。
数字としての44%は、運転席ではどう感じられるのか。一言で言えば、ステアリングを切ったときの「車体が一枚岩で動く感覚」が圧倒的に強い。コーナーの入り口で前輪が向きを変え、その動きにわずかな遅れもなく後輪と車体全体がついてくる。剛性とは、つまり「ドライバーの意思が車体に伝わる速度」なのだということを、レヴォーグVN5は身体に教えてくれる。
アイサイトXが見ている「3D高精度地図」
もう一つ、このクルマの個性を語るうえで欠かせないのが、アイサイトXだ。ベストカーの解説によれば、これは従来のアイサイトを大きく拡張した先進運転支援システムで、GPSと準天頂衛星「みちびき」、そして3D高精度地図データを組み合わせて、自車位置を車線単位で把握する。
「視野角を拡げたステレオカメラに加え、前後4つのレーダーを組み合わせ360度のセンシングを実現」
大切なのは、これを「自動運転」と呼ばないことだ。アイサイトXは、ドライバーの代わりにクルマを走らせる仕組みではない。家族を乗せた長距離移動で、ドライバーの集中力が薄くなる瞬間を補い、最悪の結果を回避するための仕組みだ。「自動運転に近い」ではなく、「家族の安心に近い」と表現するほうが、僕には正確に感じられる。
STI Sport R EXに乗った日、僕は2.4Lターボの正体を知った

レヴォーグのグレード構成の最上段に、STI Sport R EXというモデルがある。エンジンは1.8L CB18ではなく、webCGの試乗記が記すとおり、2.4L水平対向4気筒ターボ「FA24」。最高出力275ps、最大トルク375Nm。BRZと同じ排気量だが、目指している景色は別物だ。
BRZと同じFA24、でも目指している景色は別
BRZのFA24は7,000rpmまで気持ちよく回るNAだが、レヴォーグSTI Sport R EXのFA24はターボ過給で2,000〜4,800rpmの広い領域で太いトルクを発生する。同じ排気量の同じ型式エンジンが、片や軽量2シータークーペ、片やプレミアム・ツーリングワゴンの心臓として、それぞれの正解を担っている。スバルというメーカーの懐の深さが、ここにある。
平日の通勤と週末のワインディング、両方が嬉しい
試乗の日、僕は近所のワインディングを少しだけ走らせてもらった。STI専用足回りは、街中ではしなやかに、コーナーでは抑えるべき揺れを的確に抑える。375Nmのトルクは、ふと右足に力を込めただけで、後輪を含めた4輪が地面を蹴って前に進む。これは、ワゴンに2.4Lターボを載せるという、ある種の贅沢な反逆だった。
2代目レヴォーグは、スバルがBRZ/GR86と同じ群馬製作所・矢島工場で作っている。同じ屋根の下、同じ熟練の手によって、2シーターのスポーツクーペと、家族のためのプレミアム・ワゴンが、同時に組み立てられている。その事実だけで、僕はこのクルマを好きになる十分な理由がある。
「レヴォーグはひどい」と検索した、あなたへの正直な返事

ネット上には「レヴォーグ ひどい」という検索がある。買おうかどうか迷っている人が、ネガティブな情報も含めて検証したいという、誠実な動機からの検索だ。橘譲二として、ここは正直に書きたい。
燃費はWLTC 11〜13km/L。十分か、物足りないか
1.8L CB18搭載モデルの燃費はWLTCモードで13km/L前後。実燃費は街乗りで9〜11km/L、郊外巡航で12〜13km/L。エコカーと比べれば、確かに物足りない。だが、水平対向4気筒+AWDというパッケージで、この燃費は十分に健闘していると僕は思う。燃費を最優先するならハイブリッドを選べばいい。レヴォーグを選ぶ理由は、燃費ではない。
全長4,755mmは、本当に大きいのか
レヴォーグの全長は4,755mm。確かに、コンパクトカーと比べれば大きい。だが、同クラスのSUV(フォレスターは4,640mm、アウトバックは4,870mm)と比べると、決して突出して大きくはない。日本の都市部の駐車場や狭い道に対する適合性は、SUVより明らかに高い。「ステーションワゴンだから取り回しがいい」という言葉は、レヴォーグについては今もなお有効だ。
「ひどい」と感じる理由が、燃費なのか、サイズなのか、価格なのか。検索する人にはそれぞれの理由がある。すべての不満を解消する魔法のクルマは、世の中に存在しない。だが、自分が何を諦め、何を諦めないかを言葉にして整理すれば、レヴォーグはその上で十分に魅力的な選択肢として残る。少なくとも僕の中では、そうだった。
2026年、レヴォーグの中古を選ぶということ

中古市場の現在を、数字で押さえておこう。初代VM4(1.6L)の流通価格は、33.1万〜250万円。初代VMG(2.0L)は53.5万〜345.7万円。状態と年式によって、極めて広いレンジを持っている。
初代VM4/VMGは33万〜345万円のレンジ
初代を選ぶなら、見るべきポイントは整備履歴の連続性、CVTのコンディション、リアデフのオイル管理、そしてアイサイトのバージョンだ。アイサイトのバージョンが3か4かで、安全装備の体感は大きく変わる。安く買えても、初年度に20万円〜30万円の整備費がかかる個体もあるので、価格だけで飛び付かないこと。
2代目VN5は280万〜450万円、Layback合わせて検討する
2代目VN5の中古は、280万〜450万円のレンジ。STI Sport R EXは新車に近い価格を維持している。ガリバーの記事でも触れられているとおり、2023年9月に登場した派生モデル「レヴォーグ・レイバック」も視野に入れたい。最低地上高を上げ、SUVテイストの内外装を持つレイバックは、レヴォーグ本体より少しだけアウトドア志向の家族に向いている。
大学時代の走り屋仲間が、結婚後にインプレッサからレヴォーグに乗り換えていた。先日連絡をもらったとき、彼はこう言った。「家族を乗せるための妥協じゃない。家族を乗せて走る楽しさを、ちゃんと残してくれたクルマだった」と。その一言に、僕は深く頷いた。
中古を選ぶ際にもう一つ覚えておきたいのは、スバル車は整備履歴と整備工場の質が、走りのコンディションに直結するということだ。スバル系列のディーラーで点検を受け続けた個体は、AWDのハブの状態やリアデフのオイル管理が信頼できる。少し価格が高くても、整備履歴の連続性で選ぶのが、結局は安く長く乗るコツだ。
よくある質問

初代レヴォーグと2代目、どちらを買うべきですか?
価格と完成度の2代目VN5、コストパフォーマンスと素直なフィーリングの初代VM。最新のアイサイトXを使いたいなら2代目一択。逆に200万円台の予算で水平対向ターボ+AWDを味わいたいなら、初代VMG/2.0L STI Sportが現実的な選択肢になる。
レヴォーグの燃費は悪いですか?
WLTCモードで11〜13km/L、実燃費9〜13km/L程度。エコカーと比較すれば物足りない。だが、水平対向4気筒+AWDというパッケージで、この数字は健闘している方だ。燃費を最優先するならハイブリッドかEVを選ぶべきで、レヴォーグはそういう選び方をする車ではない。
レヴォーグとレイバックの違いは何ですか?
基本骨格は同じ。違いは最低地上高(レイバックの方が高い)、内外装の方向性(レイバックはSUV風)、そしてサスペンションのセッティング。アウトドア志向のファミリーにはレイバック、走りの応答性を重視するならレヴォーグ。試乗して、運転席の視線の高さで決めるのが分かりやすい。
レヴォーグはSUVと比べてどんなメリットがありますか?
重心が低い分、コーナリングの応答性で勝る。荷室は容量こそSUVより劣るが、低床で長尺物を積みやすい。高速道路の長距離移動で、家族の疲労が明らかに少ない。SUVの「見晴らしの良さ」とは別の方向の快適さを持っている。
STI Sport R EXは、本当に必要ですか?
必須ではない。1.8L CB18搭載のGT-H EXやSTI Sport EXでも、十分に楽しい。ただし、STI Sport R EXの2.4Lターボのトルクを一度体感してしまうと、戻れなくなる人もいる。試乗だけはしないほうがいい、というのが僕の半分本気の冗談だ。家族との日常で1.8Lを選び、たまの長距離で「2.4Lを試乗しに行く」くらいの距離感が、ちょうどいいかもしれない。
まとめ
レヴォーグは、SUVの全盛時代に静かに作られ続けている、日本専用設計のステーションワゴンだ。スバルが「日本の道のために」と覚悟を決めて作った1台が、家族のためのクルマと走るためのクルマを、同時に成立させている。
ミニバンを選んだあなたは、間違っていない。SUVを選んだあなたも、誇っていい。ただ、もしまだ買う車を決めかねているのなら、一度だけスバルのディーラーに足を運んで、レヴォーグの運転席に座ってみてほしい。視線の低さが、何かを思い出させてくれる可能性がある。
家族にとっての安心と、僕自身の走る時間。その両方を、低い屋根の下で同時に成立させてくれるクルマは、思っているより少ない。レヴォーグは、その少数派の一台だ。
家族の時間と、僕自身の時間。両方を諦めない一台が、ガレージに眠っている。
執筆:橘 譲二(たちばな・じょうじ)
情報ソース一覧
- SUBARU公式 レヴォーグ
- SUBARU公式 日本カー・オブ・ザ・イヤー2020-2021受賞プレスリリース
- スバル・レヴォーグが日本カー・オブ・ザ・イヤー2020-2021を受賞(webCG)
- スバル・レヴォーグSTI Sport R EX 試乗記(webCG)
- コスパ抜群 初代スバル・レヴォーグ(VM4、VMG)(Motor-Fan)
- スバル初代レヴォーグファーストインプレッション(ベストカー)
- アイサイトXの実力と開発者の思い(ベストカー)
- スバル新型レヴォーグ レイバックとレヴォーグはどう違う?(ガリバー)
- 新型レヴォーグとアイサイトXで安全をブランド化したスバル(日経xTREND)


コメント