BRZ ZC6という、馬鹿正直な相棒。前期後期の違いとFA20、中古・買取相場、86との違いまで

スバル

初めて借り物のBRZで峠を流したとき、僕がいちばん驚いたのは、速さではなかった。

その「嘘のなさ」だった。
ステアリングを切れば、切った分だけ素直に鼻先が入る。アクセルを踏めば、踏んだ分だけリアが正直に応える。電子制御の分厚いベールの向こうで何かが起きている、という感覚がまるでない。すべてが、手のひらの上で起きている。

路面と、タイヤと、自分の手足が、一本の線でつながっている。
コーナーの途中で、車が今どこに荷重を預けているのか、目をつぶっていてもわかる気がした。フロントの外側のタイヤが、ぐっと路面を踏ん張る。その感触が、シートを通して尻に、ステアリングを通して手のひらに、生々しく伝わってくる。これほど素直に語りかけてくる車は、最近では珍しい。

BRZ ZC6
スバルが初めて世に問うた、2ドアの水平対向FRスポーツ。その初代にあたる一台だ。

200馬力そこそこ。今の基準で言えば、けっして速い車ではない。
非力だ、中途半端だ、という声も、昔からずっとついて回ってきた。もっとパワーがあれば、もっとターボがあれば。そんな「たられば」を、この車はずっと言われ続けてきた。その評価も、理解はできる。

でも、僕に言わせれば、ZC6は馬鹿正直な相棒だ。
嘘の上手い車ばかりが増えた時代に、ばか正直に本当のことだけを返してくる。その誠実さこそが、この車の何よりの魅力なのだ。

嘘をつかないFR──BRZ ZC6が掴んだ接地感


BRZ ZC6を語るうえで、まず触れなければならないのが「低さ」だ。

スバルの水平対向エンジンは、シリンダーが左右に寝そべる構造をしている。だから、エンジンそのものを驚くほど低い位置に積むことができる。重心が低いということは、コーナーで車が傾きにくく、タイヤが路面を素直に捉え続けるということだ。

この低重心が生む接地感は、ZC6の生命線と言っていい。
僕の感覚で言えば、ZC6は「地面と握手しているような車」だ。常に路面と手を握り合っていて、その手の温度や湿り気まで伝わってくる。だから、限界がどこにあるのかが、はっきりと、しかも穏やかに教えられる。

多くのスポーツカーは、速さと引き換えに「怖さ」を抱えている。限界を超えた瞬間、唐突に牙をむく車も少なくない。だがZC6は違う。限界の手前で、ちゃんと前触れをくれる。だからこそ、運転がまだ上手くない人でも、安心して車との対話を学んでいける。

思えば、僕が20代の頃に憧れた車は、もっと過激なものばかりだった。ターボで武装し、踏めば背中を蹴飛ばすような大パワー。あの暴力的な加速に、若い僕は痺れていた。だが、年を重ねて分かってきたのは、本当に楽しい時間は、必ずしも最高速の数字の中にはない、ということだった。

ZC6は、そのことを静かに教えてくれる車だ。タイヤが路面を捉える感触、荷重がフロントからリアへ移っていく流れ、ステアリングから返ってくる細かな手応え。そのひとつひとつを味わいながら走ると、たとえ法定速度の範囲でも、胸の奥がじんわり熱くなる。

速さで人を黙らせる車ではない。だが、運転そのものの面白さを、これほど丁寧に、これほど正直に教えてくれる車も、そう多くはない。ZC6は、ドライバーを上手にしてくれる車なのだ。

トヨタと組んで生まれた水平対向FR──FA20という選択


ZC6が生まれた背景には、自動車史に残る、ひとつの協業があった。

トヨタとスバル。本来ならライバルであるはずの二社が手を組み、共同で一台のスポーツカーを開発した。トヨタが企画と直噴技術を、スバルが得意の水平対向エンジンと生産を担う。その成果が、トヨタ86(ZN6)であり、スバルBRZ(ZC6)という兄弟車だった。

FA20という、ちょうどいい心臓

積まれたのは、スバルのFA20型。2.0リッターの水平対向4気筒、自然吸気だ。トヨタの直噴技術D-4Sを組み合わせ、前期型でおよそ200馬力を発生する。

ここで興味深いのは、開発陣があえて大パワーを狙わなかったことだ。
ターボで武装すれば、数字の上ではいくらでも速くできた。だが彼らが選んだのは、「誰もが限界を扱えるFR」という思想だった。パワーより、接地感。速さより、操る楽しさ。その哲学が、FA20という心臓のサイズに、そのまま表れている。

かつて、手頃な価格で買える後輪駆動のスポーツカーは、街にいくらでもあった。だが時代が進むにつれ、その手の車はほとんど絶滅しかけていた。安全基準やコスト、燃費の要求の中で、2ドアFRというぜいたくな構成は、商売として割に合わなくなっていったのだ。

そんな逆風の中で、ZC6と86は「もう一度、若者が手の届くFRスポーツを」という志のもとに生まれた。だから、この車には単なる商品以上の、ある種の使命感のようなものが宿っている。それが、ハンドルを握ったときの真剣な手応えに、確かにつながっている気がする。

86との違いは、どこにあるのか

ZC6とZN6、つまりBRZと86は、骨格をほとんど共有する兄弟だ。
それでも、ヘッドランプやバンパーの造形が異なり、足回りの味付けにも各社の個性が滲む。一般に、BRZはより安定志向、86はより曖昧さを残した遊び心、などと語られることが多い。

ただ、馴染みの中古車屋の店主は、もっと身も蓋もないことを言っていた。

「86とBRZ、結局はみんな顔の好みで選ぶよ。中身はほぼ同じ。でも、それでいいんだ。好きな顔の相棒がいちばん長く乗れる」

たしかに、その通りかもしれない。理屈より、ひと目惚れ。車選びとは、本来そういうものだ。

前期か後期か──BRZ ZC6の進化と見分け方


ZC6を中古で探すとき、最初の分かれ道になるのが前期と後期の違いだ。

2012年から続いたZC6は、2016年に大きな改良を受けている。
後期型では、6速MT車のエンジンがおよそ207馬力へと小幅に引き上げられ、加速のフィールも磨かれた。ヘッドライトやテールランプはフルLED化され、フロントバンパーの形も変わった。メーター内に液晶ディスプレイが組み込まれ、内装の質感も着実に上がっている。

では、後期型が一方的に優れているのかというと、そう単純でもない。
前期型には、素っ気ないほどシンプルで、そのぶん軽快という魅力がある。装備が少ないことを、むしろ潔さと感じる人も多い。価格も、前期型のほうが手に入れやすい傾向にある。

グレードにも触れておきたい。
ベーシックな「R」は、装備を絞ったぶん軽く、カスタムのベースとしても人気が高い。快適装備を備えた「S」は、日常との両立に向く。2016年に登場した「GT」は、ザックス製ダンパーやブレンボ製ブレーキを奢った上級仕様で、曲がる・止まるの質を一段引き上げている。さらにSTI製パーツを盛り込んだ「STI Sport」も用意された。

見分け方のコツも、覚えておくといい。フロントバンパーの造形やライトの光り方、室内のメーター周りを見れば、前期か後期かはおおよそ判断できる。中古車を探すときは、写真の細部にまで目を凝らすと、出品されている個体の素性がぐっと読めるようになる。

どれを選ぶかは、予算と、どんな時間を過ごしたいか次第だ。
正解はひとつではない。だからこそ、カタログや中古車サイトを眺めながらあれこれ悩む、その時間そのものが、もう所有の楽しみの一部なのだ。僕は、その悩んでいる時間が、実はいちばん幸せだったりする。

非力という、最高の遊び道具──ZC6の乗り味とカスタム


「非力」という言葉は、たいてい欠点として使われる。
だがZC6に限っては、それはむしろ最大の長所だと、僕は思っている。

パワーが控えめだということは、そのパワーを公道で使い切れるということだ。
大馬力のスポーツカーは、その性能のほとんどを、サーキットの外では眠らせたままになる。アクセルを少し踏んだだけで非常識な速度に達してしまい、結局、本当の楽しさには触れられない。

ZC6は違う。
エンジンを高い回転までしっかり回し切って、その音とともにコーナーへ飛び込んでいく。その一連の操作を、公道の法定速度の範囲でも、たっぷり味わえる。前期のRに乗る走り仲間が、こんなことを言っていた。

「パワーがないってよく言われるよ。でも、だからこそ一日中アクセル全開で遊んでいられるんだ」

これ以上の褒め言葉が、ほかにあるだろうか。一日中、心ゆくまでアクセルを踏み込んで、それでも危険な速度には達しない。これは、現代の公道において、とんでもなく贅沢なことだ。大パワー車では、決して味わえない種類の自由がそこにある。

低い重心と素直な挙動のおかげで、ワインディングでは車と一体になれる。コーナーの入り口でブレーキを残し、荷重を前に乗せながら鼻先をねじ込んでいく。その一連の動きが、思った通りに決まったときの快感は、何ものにも代えがたい。タイムを競うのではない。自分の意思と、車の反応が、ぴたりと重なる瞬間を味わうのだ。

カスタムの世界も、ZC6は豊かだ。
マフラーを替えて水平対向独特の排気音に表情を与え、ホイールやサスペンションで接地感をさらに研ぎ澄ます。タイプRならぬ競技仕様へと仕立てる人もいれば、見た目を整えて街乗りを楽しむ人もいる。素性が素直だからこそ、手を入れた成果が、はっきりと体に返ってくる。

中古相場・買取相場・燃費という、現実の話


ロマンだけでは、車庫は埋まらない。現実の話もしておこう。

ZC6の中古は、いま選択肢が豊富だ。
2012年から2020年まで長く作られたぶん、年式も価格帯も幅広い。手の届きやすい前期のRから、装備の整った後期のSやGTまで、予算に応じて選べる。新車時に200万円台という良心的な価格だったことも、中古市場の裾野を広げている。

買取相場という観点でも、ZC6は底堅い。
FRの2ドアスポーツという出自と、根強い人気のおかげで、極端に値を崩しにくい。乗り潰す覚悟で買っても、いざ手放すときに思ったより値がつく、という声も少なくない。

燃費は、2.0リッターの自然吸気としては、ごく常識的な範囲だ。
ターボの過給に頼らないぶん、扱い方しだいでは思いのほか伸びる。維持費も、量産スポーツらしく現実的で、特別に身構える必要はない。

そして、これは意外に知られていないが、ZC6は壊れにくい。過給機に頼らない自然吸気エンジンは、構造がシンプルなぶん、無理をさせなければ素直に長く付き合える。もちろん、スポーツ走行を重ねれば消耗品はそれなりに減るが、それは趣味の車として当然のコストの範囲だ。

だからこそ、今もサーキットのタイムアタックの現場には、たくさんのZC6が走っている。安く、丈夫で、素直。この三拍子が揃っているから、走りを学びたい人にとって、ZC6は最高の「先生」になってくれる。最初の一台でハンドリングの基礎を体に叩き込み、そのまま長く付き合う。そんな人を、僕は何人も見てきた。

家族のために実用車を選んだあなたを、僕は心から尊敬する。
その選択は、まぎれもなく正しい大人のものだ。ただ、もし二台目に走るための一台を選ぶなら、ZC6は、これ以上ないほど誠実な候補になる。

速さじゃない、対話だ──いまBRZ ZC6に乗る意味


車は年々、速く、賢く、快適になっていく。
それは素晴らしいことだ。僕は、その進化を否定するつもりはまったくない。

ただ、性能が上がるほど、車と人の間には、ぶ厚い電子制御の壁が増えていく。安全のためには必要なことだ。けれど、その壁の向こうで、運転という行為そのものの手応えが、少しずつ遠ざかっているのも事実だと思う。

ZC6は、その壁が、まだとても薄い車だ。
路面の感触も、タイヤの限界も、車の重心の動きも、ぜんぶ正直にこちらへ返してくる。だから、運転していると、車と会話をしているような気持ちになる。

速さの記録ではなく、対話の記憶。
ZC6が与えてくれるのは、まさにそれだ。あの嘘のない手応えは、何年経っても、きっと色褪せない。むしろ、電子制御がますます高度になっていく時代だからこそ、ZC6のような正直な車の価値は、これから静かに増していくはずだ。

よくある質問

前期と後期では、どこが違うのか。

2016年の改良が境目だ。後期型では6速MT車のエンジンがおよそ207馬力へ引き上げられ、加速が磨かれた。ライト類のフルLED化、バンパー形状の変更、メーター内液晶の追加、内装質感の向上などもある。一方、前期型は素っ気なくも軽快で、価格も手頃。長く乗るなら後期、コストと潔さなら前期、という選び分けになる。

86とBRZは、何が違うのか。

骨格を共有する兄弟車で、中身はほぼ同じ。ヘッドランプやバンパーの造形が異なり、足回りの味付けにも各社の個性が出る。一般にBRZはやや安定志向と言われるが、差はわずかだ。実際は「どちらの顔が好きか」で選んで後悔のない、それくらい近い関係にある。

FA20は非力で、遅いのか。

絶対的なパワーで圧倒する車ではない。だが、その控えめな出力こそが、公道で使い切れる楽しさを生んでいる。エンジンを高回転まで回し切る快感を、法定速度の範囲でも味わえる。「速い車」ではなく「面白い車」を求めるなら、これ以上ない選択だ。

中古の狙い目や買取相場は、どうか。

年式も価格帯も幅広く、前期Rから後期GTまで選べる。FRスポーツとして人気が根強く、買取相場も底堅い。値を極端に崩しにくいので、乗り潰す覚悟で買っても、手放すときに助けられることが多い。状態と整備履歴のしっかりした一台を、信頼できる店で選ぶのが鉄則だ。

カスタムの定番は、何か。

マフラーで水平対向の排気音に表情を与えるのが、まず人気。ホイールやサスペンションで接地感を磨く方向も定番だ。素性が素直なので、手を入れた成果が体にはっきり返ってくる。過激に振らず、自分の感覚に合わせて少しずつ仕上げていくのが、ZC6らしい付き合い方だ。エアロやテールランプで見た目を整える人も多く、純正品から社外品まで選択肢は豊富にそろっている。

まとめ


速い車は、いい。賢くて快適な車も、いい。

でも、嘘をつかない車にしか味わえない、特別な手応えがある。

切った分だけ曲がり、踏んだ分だけ応える。
その馬鹿正直な対話を、BRZ ZC6は、何年経っても、何キロ走っても、変わらずに返してくれる。

あなたが最後に、車と本気で対話したのは、いつだろう。

執筆:橘 譲二(たちばな・じょうじ)

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